2026年4月7日、FBIがIC3(インターネット犯罪苦情センター)の2025年次報告書を公表した。そこに記された数字は114億ドル——2025年に米国人が暗号資産関連詐欺で失った総額だ。前年比22%増で、IC3設立以来の最高記録を更新した。金融庁(FSA)や日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が国内規制を整備してきた日本にとっても、この数字は対岸の火事ではない。
IC3報告書が示す記録的な被害規模
今回の報告書でIC3への年間苦情受付件数が初めて100万件を超えた。暗号資産関連の苦情だけで181,565件(前年比+21%)に達し、被害者1人当たりの平均損失は62,604ドル。10万ドル超の損失を申告した人数は18,600人近くに上る。
歴史的な推移を見れば規模感がより鮮明になる。2017年、暗号資産詐欺の被害額は約2,700万ドルだった。2025年にはその400倍以上に膨らんでいる。暗号資産詐欺は現在、FBIに報告されたサイバー犯罪損失全体の半分以上を占める。
"The FBI remains fully committed to ensuring Americans" safety online."
The FBI's 2025 Internet Crime Report shows that Cyber-related crimes cost Americans nearly $21 billion in 2025. Last year, IC3 received more than 1 million complaints, with about 45% of those involving cyber-enabled fraud or scams, accounting for 85% of the reported losses.
— FBI (@FBI) April 6, 2026
The… pic.twitter.com/U5YmqRs7Xt
ピッグ・ブッチャリング詐欺:日本でも警戒が必要
被害が最も大きいカテゴリーは、いわゆる「ピッグ・ブッチャリング(pig butchering)」投資詐欺だ。詐欺師がSNSや通話アプリで長期間にわたり信頼関係を構築し、最終的に被害者を架空の投資プラットフォームへ誘導する手口で、日本でも警察庁が類似の手法に対する注意喚起を繰り返している。
2025年、この詐欺類型だけで72億8,000万ドルの損失が発生した(前年比+25%)。苦情件数は61,559件で、48%もの急増を見せた。犯罪者が暗号資産を好む理由は明確だ。送金の即時性、国境を越えた匿名性、そして一度送金すれば事実上回収不能という点にある。
背後には東南アジアの詐欺工場が存在する。人身売買被害者が強制的に詐欺業務を行わされる構造で、米国司法省(DOJ)とTetherによる5億8,000万ドル規模の押収作戦でもその実態が確認されている。
FBI: US Crypto Scam Losses Hit $11.4B in 2025, Up 22%
— Wu Blockchain (@WuBlockchain) April 7, 2026
The FBI's 2025 Internet Crime Report shows US users lost $11.4 billion to cryptocurrency-related fraud in 2025, up 22% year over year, based on 181,565 crypto-asset complaints (+21%).
Average loss per complaint was $62,604,… pic.twitter.com/JR5ql2BQpH
60歳以上の被害:損失全体の約40%
報告書で最も深刻なデータが、60歳以上の被害者に関する数字だ。44,555件の苦情から総額44億ドルの損失が発生し、暗号資産詐欺全体の約40%を占めた。2024年(28億ドル)の約2倍に相当する。
暗号資産ATMおよびキオスク詐欺でも3億8,900万ドルの損失が生じており(+58%)、そのうち高齢者被害分だけで2億5,700万ドルに達する。日本においても、bitFlyer・Coincheck・SBI VC Tradeといった国内主要取引所は金融庁の監督下でAML・KYCを整備しているが、ATM経由の被害は規制の死角になりやすい点は共通している。
TRM Labsのグローバル政策責任者Ari Redbordは「FBIの114億ドルという数字は成長を追う重要な指標だが、全体像の一部に過ぎない」と述べ、世界全体の実被害額を約350億ドルと推計した。被害者の15%しか実際に申告しないと考えると、公式統計の背後には巨大な未申告被害が存在することになる。
生成AIとディープフェイク:詐欺師の新たな武器
IC3の25年近い歴史で初めて、人工知能関連詐欺が独立したセクションとして分類された。22,364件の苦情で約8億9,300万ドルの損失が報告されている。犯罪者は生成AIを使って説得力あるフィッシングメールを作成し、音声を複製し、身分証を偽造し、著名人や被害者の家族を模したディープフェイク動画を制作している。
CertiKの米国政府渉外責任者Stefan Muehlbauerはこう表現した。被害者が暗号資産ATMに到着する頃には、すでに詐欺師の心理的支配下に置かれている。規制だけでは不十分で、検知・教育・資産回収手段を組み合わせたアプローチが不可欠だ。
- 生成AIによるフィッシングメールの自動生成・個別最適化
- 音声クローニングによる家族・知人の成りすまし
- 著名人のディープフェイク動画を使った投資勧誘
- AI生成の偽造身分証によるKYC回避の試み
FBIの反撃:オペレーション・レベルアップ
2024年に開始された「オペレーション・レベルアップ(Operation Level Up)」は、進行中の詐欺に巻き込まれていた8,000人超の潜在的被害者に警告を発し、5億ドル以上の損失を防いだ(2025年だけで2億2,500万ドル)。警告を受けた人の78%は、自分が標的にされていたことを認識していなかった。
記録された事例は衝撃的だ。401(k)退職年金から75万ドルを引き出そうとしていた人物が寸前で保護され、存在しない投資プラットフォームに充てるため自宅を売却して50万ドルを用意しようとしていた事例もある。38人の被害者は自殺危機支援へと繋げられた——この数字だけで、詐欺が引き起こす破壊の深さが分かる。
日本語での暗号資産詐欺被害は、まず警察庁の「#9110」(警察相談専用電話)または最寄りの警察署へ連絡を。被害申告には、ウォレットアドレス・トランザクションID・スクリーンショットなど、手元のあらゆる証拠を保全した上で提出することが捜査の助けになる。米国ベースの被害であればic3.govへの申告も有効だ。
