2013年10月、バンクーバーのカフェに世界初のビットコインATMが設置された。それから13年後。カナダ政府は全国に存在する4,000台の暗号ATMを全廃する方針を打ち出した。CoinDeskの報道によれば。2025年だけでカナダ国内の詐欺被害額は7億400万カナダドルに上る。
スプリング経済アップデートが示す数字
2026年4月28日に公表されたスプリング経済アップデートは、カナダ国内の暗号資産ATMを一律禁止する方針を明記した。大手事業者か中小事業者か、FINTRACへのMSB登録の有無、オフショア法人かどうかといった区別は一切設けられていない。
マーク・カーニー首相率いる政府が求めているのは「規制強化」ではなく「撤廃」だ。FINTRACはすでに2023年2月の報告で。暗号ATMを詐欺師が被害者から資金を回収・洗浄するための「主要手段」と位置づけていた。CoinDeskによると、2022年からの累計被害額は24億カナダドルを超え、被害者のうち通報するのは5〜10%にとどまる。
日本の暗号ATM:規制と実態のギャップ
カナダの4,000台と比べれば日本の暗号ATM台数は少ない。金融庁(FSA)の管轄下にある暗号資産交換業者(CAEX)が設置するATMは、資金決済法および改正犯罪収益移転防止法の対象となる。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の自主規制も適用されるため、匿名での現金取引には厳格な本人確認(KYC)が義務づけられている。
ただし、規制の網が整備されていても実際の執行能力には限界がある。ATMの設置場所の定期監査や専任の検査人員が十分に確保されているかどうかは、別の問題だ。カナダの事例は、制度上の登録と実質的な監督の間に生じる「実行ギャップ」が詐欺の温床になりうることを示している。
ビットコインデポとFBIが示す世界的傾向
業界の実態を象徴するのが。米国最大手のATM運営事業者ビットコインデポのケースだ。アトランタに本社を置く同社は。2026年3月にコネチカット州から営業免許を停止された。規制違反と詐欺被害者への返金拒否が理由だ。マサチューセッツ州でも同様の問題が生じている。
国際調査報道連盟(ICIJ)の調査によると、2023年8月から2025年1月にかけて、ビットコインデポのキオスクを流れた資金の半数超が詐欺と関連していた。米FBIのIC3レポートによれば、2025年の暗号ATM関連の苦情件数は13,460件、被害総額は3億8,900万ドルで、前年比58%増加している。なお、SpazioCryptoが別途報じたFBI IC3 2025年次報告では、米国全体の暗号資産詐欺被害は114億ドルに達した。
現金から暗号資産へ、そして匿名ウォレットへという流れを一台の機械が担う構造は、正規事業者にとっては利便性であり、不正利用者にとっては隠蔽ツールになる。カナダ、米国コネチカット、そして日本が共有するジレンマはここにある。
カナダ議会の動向と日本が注目すべき点
言い換えると、カナダ議会では、スプリング経済アップデートの実施法案に関する採決が2026年6月に予定されている。即時禁止となるのか、FINTRACに登録済みのMSB事業者に対して段階的な退出期間が設けられるのかは、その採決結果次第だ。
日本の投資家や事業者が今後注視すべきは。金融庁が来年以降に予定する暗号資産交換業者への立入検査の強化方針だ。JVCEAの自主規制ガイドラインの改訂動向も重要な指標となる。カナダが連邦禁止という最も厳しい選択肢を選んだ事実は。G7各国の規制当局にとって一つの基準点になる。FSAがATM固有のリスク評価を公式に打ち出すかどうかが。次の注目点となる。
