Krakenの親会社Paywardは2026年5月15日、全従業員約3,000人の5%にあたる150人を削減した。公式理由はAI(人工知能)による業務自動化だ。同社は過去8か月で26億5,000万ドルもの買収を実施しながら、人員を減らすという矛盾した動きを見せている。上場評価額200億ドルを目指すIPO計画にも影が差し始めた。
26億5,000万ドルの買収と人員削減: Paywardの経営論理
2025年1月以降、PaywardはCoinDeskおよびBloombergの報道によると8社を買収した。主な3件は、CFTC認可の先物プラットフォームNinjaTraderを15億ドル、デジタルデリバティブ専業のBitnomialを5億5,000万ドル、ステーブルコイン決済のReap Technologiesを6億ドルで取得している。合計26億5,000万ドルの投資だ。
同期間に人員は着実に絞られてきた。2024年10月には全体の約15%にあたる400人を削減。今回の150人と合わせると、18か月間で約550人がPaywardを去ったことになる。買収で能力を拡張しながらコスト構造を最適化するという戦略は、一見矛盾して見えるが、IPO前企業のセオリー通りでもある。
Krakenは2025年第3四半期に6億4,800万ドルの過去最高収益を記録したと同社のプレスリリースで発表していた。その後市場環境が悪化し、体制の見直しが加速した。
主要データ
- 削減人数(2026年5月15日) 150人(3,000人の5%)
- 2024年10月以降の累計削減 約550人
- 2025-2026年買収総額 26億5,000万ドル(8件)
- 2026年4月ラウンド評価額 133億ドル
- IPO目標評価額 200億ドル
- SEC秘密S-1提出日 2025年11月19日
出典: CoinDesk、Bloomberg、KuCoin News・2026年5月15日
Payward,買収金額(単位: 10億ドル)
出典: CoinDesk、Bloomberg・2025-2026
Payward,買収金額(単位: 10億ドル)
なぜKrakenは上場前に人員を削減するのか
Bloombergが匿名の関係者の話として伝えたところによれば、AIが特定の業務ロールを不要にしたことが直接の理由だという。Paywardは特定機能への自動化ツール導入を完了しており、現時点でさらなる人員削減は予定していないとしている。
もう一つの理由は財務的な合理性だ。上場を目指す企業はコスト規律を投資家に示す必要がある。EBITDAが1ポイント改善するだけで、市場評価額への影響は倍以上になる。SECへの秘密S-1提出は2025年11月19日。その後、Paywardは2026年3月に市場環境の悪化を理由に上場計画を一時停止した。
2026年4月のラウンドでは評価額が133億ドルとなり、2025年末の最高値から33%下落したとBloombergは報じている。Deutsche Börseは2億ドルを投じて1.5%の株式を取得し、2025年12月に戦略的提携を締結した。Consensus Miamiでは共同CEOのArjun Sethiが。KrakenはIPO準備が「80%完了している」と述べた。Bloombergの見立てでは、上場は2027年にずれ込む可能性がある。
日本の投資家にとって直接的な影響は限定的だ。ただし、上場企業となれば株主への説明責任が生じ、収益圧力が高まれば個人ユーザーへの手数料引き上げに転嫁される可能性も否定できない。金融庁(FSA)が求める暗号資産交換業者の登録要件と利用者保護の観点からも、Krakenの経営状況は注視に値する。
AIと暗号資産取引所: すでに始まった変化
言い換えると、このモデルはKrakenが独自に考案したものではない。AIエージェントはすでにHyperliquidなどの取引所で人間の介入なしに自律的に注文を執行している。McKinseyは2万5,000のデジタルエージェントを自社組織に統合済みで、JPMorganは25万人の従業員を対象に同様のシステムを展開していると報告されている。暗号資産セクターが変化のスピードが速いのは、業務そのものがもともとデジタルネイティブだからだ。
カスタマーサポート、オンチェーン監視、セキュリティアラート、リスク分析。いずれも、訓練されたAIモデルが人間よりも速く、低コストで処理できる領域だ。Alpha Arenaの実証実験では、AIモデルが無期限先物のライブ環境で人間トレーダーを上回る成績を示した。取引所の内部で起きているのも、本質的に同じプロセスだ。ただし、外からは見えにくい。
今後注目すべきは、2026年4月の評価額133億ドルとIPO目標200億ドルの差額、約67億ドルをどう埋めるかだ。米国のClarity Act(暗号資産規制明確化法)が上院で60票を確保し、5月21日の休会前に可決されれば、規制環境が変わり機関投資家の食欲が夏にも回復する可能性がある。それが実現しなければ、Bloomberg予測の2027年上場が既定路線となる。加えて、2026年4月に発覚した顧客データ恐喝事件も注視が必要だ。約2,000アカウントの情報が流出し、資産への直接被害はないとされているが、IPO直前の企業にとって歓迎できる事案ではない。
