2026年6月3日、イタリアの9つの銀行がデジタルユーロのインフラ実証実験「Eur.Bank」を正式に開始した。欧州中央銀行(ECB)は決済サービス提供者(PSP)に対してパイロット参加の申請を5月14日に締め切っており。その審査結果は2026年6月末までに公表される見通しだ。実験はMiCA規制の枠組みのもとで進められており、一般消費者向けサービスではなく、技術アーキテクチャの検証に主眼が置かれている。
デジタルユーロ: ECBロードマップ
出所: ECBおよびイタリア中央銀行公式発表、2025~2026年
9行が実際に検証しているもの
イタリアの実証実験は商業サービスの提供ではない。インフラの技術検証だ。ECBの公式発表によると、2023年11月に開始された準備フェーズは2025年10月に成功裏に終了し、ECB政策理事会は次のフェーズへの移行を決定した。スケジュールは明確で、2026年第3四半期から開発フェーズ、2027年下半期から12か月間の運用フェーズ、そして2029年に初回発行が予定されている。ただし、すべての段階は2026年中の欧州規制の採択が前提条件となっている。
並行して、UniCredit を含む9行の欧州銀行コンソーシアムが、オランダの電子マネーライセンスを取得した法人を通じてMiCA適合のユーロ建てステーブルコイン開発を進めており、ECBの発表によれば2026年下半期の発行が見込まれている。公共デジタル通貨と民間の規制済みステーブルコイン。二つのレールは並走しており、欧州が独自の決済インフラを求めているという意思の表れだ。
パイロットで検証される4種類の決済
言い換えると、2027年下半期に始まる運用フェーズでは、パイロットが四つの決済類型を検証する。オンラインおよびオフラインでの個人間送金、NFC技術を活用した店舗での対面決済、ウェブサイトおよびアプリを通じたオンライン決済だ。
PSPはECBおよび各国中央銀行と緊密に協力しながら、利用者のオンボーディングと取引処理を担う。ECBの公式資料によると、初回発行までの総コストは約13億ユーロと試算されており、銀行側の負担は既存の決済サービス指令(PSD)対応にかかったコストと同程度に抑えられる見通しだ。
技術の背後にある政治的賭け
ECB執行委員会メンバーのイザベル・シュナーベル氏は、2026年6月1日にソウルで開催された会議で、デジタルユーロを地政学的緊張とドル建てステーブルコインの台頭という文脈に直接結びつけた。独自の公共インフラがなければ、ユーロ圏は外部の決済レールへの依存から逃れられないという警告だ。
最終決定はECB政策理事会に委ねられており、関連法規の採択後にのみ下される。立法プロセスはすでに相当程度進んでいる。欧州委員会が2023年6月にパッケージを提出し、EU理事会が2025年12月に交渉ポジションを確定、欧州議会が2026年2月に重要な政治的支持を表明した。
日本の投資家や金融機関にとって、デジタルユーロの動向は対岸の火事ではない。金融庁(FSA)はCBDC研究において日本銀行と連携しており、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)も欧州規制の動向を注視している。デジタルユーロは現金の代替ではなく補完として設計されているという点は、ECBの公式文書でも繰り返し強調されており、日本のデジタル円議論にも示唆を与える設計思想だ。ECBのプロジェクト新フェーズに関するプレスリリースおよびイタリア中央銀行によるMiCAR対象主体のモニタリング資料で詳細を確認できる。6月末のPSP参加結果が出れば、2027年パイロットが実際に発足できる規模を確保できたかどうかが判明する。
