2026年6月16日、Reutersは2つの情報源を引用し、ギリシャの証券規制当局であるHellenic Capital Market Commission(HCMC)がBinanceのMiCAライセンス申請を却下する方向にあると報じた。Binanceは取引量で世界最大の暗号資産取引所であり、CoinGeckoのデータによると約3億人のユーザーを抱える。ライセンスなしの場合、2026年7月1日からEU27カ国の市場へのアクセスが失われる。これは罰金でもなく、警告でもない。事実上の市場締め出しだ。なぜギリシャの「ノー」1票がEU全体に影響するのかを理解するには、MiCA規制の仕組みを押さえておく必要がある。
Reutersの報道とBinanceの反論
Reutersが引用した2名の関係者によると、HCMCは数週間以内に却下を決定する見込みだ。同委員会は守秘義務を理由にコメントを拒否した。一方、Binanceは正式な却下通知を受け取っていないと否定し、過去18カ月間にわたり規制当局と協力してきた経緯を強調した上で、申請内容は完全に適合していると主張している。
共同CEOのRichard Tengは2026年2月、期限内の承認に自信を示し、ギリシャを欧州拠点として選んだ理由として労働力の質と事業環境を挙げていた。情報源の説明と同社の公式見解の間には依然として大きな乖離があり、その溝を埋められるのはアテネの規制当局だけだ。
ライセンス1つで27市場へ:MiCAのパスポート制度
MiCAの核心は「シングルパスポート」制度にある。いずれか1つのEU加盟国でCrypto-Asset Service Provider(CASP)として認可を受ければ、他のすべての加盟国でも営業できる仕組みだ。逆に言えば、1カ国でも承認されなければEU全域でサービスが停止となる。期限に余裕はない。
- 2024年12月30日:MiCAがEU全域で完全適用開始。
- 2026年1月23日:BinanceがHCMCにライセンス申請を提出。
- 2026年4月30日:移行期間終了。
- 2026年7月1日:完全認可済みのCASPのみが欧州顧客にサービス提供可能。
ホワイトペーパー義務から自己資本要件まで、規制の全文はEU規則(EU)2023/1114の公式テキストで確認できる。
7月1日時点での認可プラットフォームの現状については、SpazioCryptoの認可済みプラットフォーム特集でまとめている。
EU暗号資産市場:MiCAライセンス取得企業数
出所:Hogan Lovells、ESMA、2026年5月
- MiCA認可取得:194社(6%)
- 未認可またはサービス停止リスクあり:約2,806社(94%)
Hogan LovellsとESMAの2026年5月時点のデータによると、完全ライセンスを持つ企業は約194社にとどまる。2024年に旧来の各国制度下で登録されていた3,000社超と比較すると、4社に3社が移行期間終了と同時に営業権を失うリスクにさらされている。EU暗号資産市場の「大規模な選別」が現実になりつつある。
日本の投資家にとっての意味:FSAとグローバル規制の潮流
日本の暗号資産市場も対岸の火事ではない。金融庁(FSA)は2017年以降、改正資金決済法に基づく暗号資産交換業者登録制度を運用しており、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が自主規制を担う。国内登録業者であるbitFlyer、Coincheck、SBI VC Tradeなどを利用する日本のユーザーに直接的な影響はない。
ただし、国内未登録の海外取引所を利用している場合は注意が必要だ。Binanceは2021年に日本当局から警告を受けた経緯があり、日本居住者向けサービスはBinance Japanを通じた提供が前提となっている。EUでのMiCA問題が長引けば、Binance Japanの運営体制や親会社の財務健全性に波及するリスクも排除できない。国税庁のガイドラインに基づき、雑所得として課税される暗号資産の申告義務は、利用するプラットフォームの認可状況にかかわらず継続して発生する点も忘れてはならない。
市場の空白を誰が埋めるか
BinanceのEUサービス停止は、同社の消滅を意味しない。むしろ巨大な市場の空白が生まれる。MiCAライセンスをすでに取得しているCoinbaseやKrakenは、EU対応プラットフォームを探すユーザーを吸収できる体制にある。BNBトークンの価格は短期的に変動する可能性があり、トレーダーはその動向を注視している。
本質的な問いは方法論だ。Binanceのケースは、新しい欧州規制がこの規模のグローバルプレーヤーに対してどこまで厳格に執行されるかを試す試金石となる。答えは数週間以内に出る。その結論は、移行期間後の欧州暗号資産市場全体のトーンを決定づけるだろう。FSAの登録制度が先行した日本の経験は、欧州がたどるであろう道筋を先取りしていたとも言える。ESMAが公表するMiCA認可業者の最新リストを定期的に確認し、利用中の取引所が7月1日以降も合法的にサービスを継続できるかを今すぐ確認することを勧める。

