6つのうち3つの鍵。それだけで、2026年6月8日、Humanity Protocolの支配権が奪われ、3600万ドル以上が流出した。トークンHは数時間で90%近く暴落した。ばかげているのは、この犯行がコードのバグではなく、1台のノートパソコンを突いた点だ。
Humanity Protocolはただのプロジェクトではない。分散型アイデンティティのためのレイヤー2ブロックチェーンであり、サム・アルトマンのWorldに対抗する存在だ。虹彩の代わりに、ゼロ知識証明で手のひらをスキャンする仕組みを採用している。5000万ドルを調達し評価額は11億ドル、支援者にはPantera CapitalやAnimoca Brandsが名を連ねる。1週間前、Hは史上最高値に迫っていたが、そこから一転して奈落に落ちた。
具体的に何が起きたのか
チームによる経緯の再構成は、その単純さがほとんど滑稽なほどだ。Humanity Foundationのメンバー1人のノートパソコンに、ブリッジの管理鍵が複数、すべて同じ端末に保管されていた。その端末が乗っ取られたことで、攻撃者はEthereum側6つのうち3つ、BNB Chain側5つのうち3つの鍵を手に入れた。
契約の所有権を自分のウォレットに移し、ブリッジのコードを悪意あるバージョンに差し替え、1回の取引で1億4120万Hを吸い上げたうえ、さらに2億トークンを何もないところから新規発行した。奪った資金の大半、約2370万ドル分はすぐにEtherへ替えられ、KyberSwapやPancakeSwapといった分散型取引所で売却された。
We're aware of a security incident involving the compromise of private keys belonging to a member of the Humanity Foundation. The safety of our community is our top priority, and we want to be fully transparent about what we know.
— Humanity (@Humanityprot) June 9, 2026
As a precaution, please do NOT interact with the…
創業者のTerence Kwok氏はXで侵害を認め、コミュニティの安全を最優先事項と位置づけたうえで、セキュリティ企業や取引所と連携して対応する間はブリッジと関わらないよう呼びかけた。
ここで話は二つに分かれ、もう一方の筋書きの方が厄介だ。オンチェーン調査員のZachXBT氏は、チームの説明を信じていない。売却されたHがすべてDEX経由で、中央集権型取引所を通していない点を指摘し、本物の盗難にしては不自然な動きだとして、供給量が一部に集中していることに疑いの目を向けている。
The “incident” seems possibly staged I am not buying the teams story it’s a convenient way for the active MM to have exited https://t.co/rLrVCaB01u pic.twitter.com/lDMkylj4jE
— ZachXBT (@zachxbt) June 9, 2026
「チームの話は信じていない」とZachXBT氏は書き、稼働中のマーケットメーカーが手を引くための都合の良い口実だと指摘した。さらに、マーケットメーカーとの契約があるなら開示するようプロジェクトに求めた。タイミングも状況を後押しする。6月25日に予定されていたトークンのロック解除まで、あと数週間という時期に事件が起きたのだ。外部からの盗難であれ、仕組まれた資金引き揚げであれ、Hを保有していた側にとって結果は同じだ。だが、信頼という観点では話がまったく違ってくる。
本当に変わったこと
重要なのは金額ではなく、その手口だ。2026年、DeFiハッキングの被害額はすでに半年で8億8500万ドルを超え、最大級の被害は欠陥のあるコードではなく盗まれた鍵から生まれている。Driftは4月に約2億8500万ドル、Kelp DAOは同じ月に約2億9200万ドルを失った。DeFiのマルチシグは、まさにこれを防ぐために存在する。鍵を異なる人物や端末に分散させ、1台の機械だけでは資金を動かせないようにする仕組みだ。
それを1台のノートパソコンにまとめて保管すれば、その目的は台無しになる。狙われ続けるブリッジで見てきたのとまったく同じ構図だ。同じ人的な弱点はAIを使った新種のエクスプロイトやAnthropicによるスマートコントラクトのテストにも繰り返し現れ、アイデンティティとAIの物語の上に築かれたトークンの重荷にもなっている。
リスクの最前線は移り変わった。もはやコードの品質の問題ではない。鍵を管理する人間の習慣の問題だ。コードは毎年改善されていく。だが手順は、あまりにも多くの場合、そうではない。



