2026年6月7日に発表され、6月10日の公式声明で改めて確認された今回の提携は、ロボティクス・自動運転・データセンターインフラ・クラウドGPUサービスという4つの垂直領域を一体的にカバーする。NVIDIAとLGグループは、韓国のAI産業史上最大規模の協業のひとつを発表した。中心に置かれるのは「AIファクトリー」で、LGが自社のあらゆるビジネスラインにわたってAIアプリケーションを訓練・シミュレート・検証・展開するための計算インフラを提供する。単一製品ではなく、プラットフォームそのものだ。
TL;DR: NVIDIAとLGグループは2026年6月7日、韓国にAIファクトリーを設立する包括提携を発表した。ロボティクス・自動運転・データセンター・クラウドGPUの4領域をカバーし、LG Electronicsの株価は発表後2営業日連続で韓国取引所の上限30%に達した。
韓国AI株のパフォーマンス: 2026年初来騰落率
出所: セクターレポートに引用された市場データ、2026年6月上旬時点(年初来%)
「物理AI」とは何か
今回の合意の技術的核心はロボティクスにある。LGは、NVIDIAのオープンフレームワーク「Isaac」(ロボティクス向け)、仮想空間生成モデル「Cosmos」、ロボット基盤モデル「GR00T」を、自社の産業プラットフォーム「PhysicalWorks」に統合する。物理AIとは、実世界で身体を動かす方法を学ぶ脳に例えられる。実環境へのデプロイ前に、シミュレーション空間での訓練が不可欠だ。ロボット向け訓練データの慢性的不足こそが業界最大の課題であり、ここにLG Electronicsの戦略的一手がある。LG Electronicsは「physical AI data factory」、すなわち自社のロボット検証パイプラインと同じ工程を用いてロボティクス訓練データを生成するデータ工場を構築しつつある。
初の実製品: 家庭用ロボットCLOiD
言い換えると、LGが2026年1月のCES 2026で初公開した家庭用コボット「CLOiD」は、この全シミュレーションパイプラインを通過した最初の製品だ。家事作業を想定して設計されており、各7自由度の関節アームを2本備え、各手には独立して動作する5本指を持つ。LGは実際の住宅環境へ投入する前に、物理的に精密な仮想空間でCLOiDを検証する。言語モデルの領域では、NVIDIAとLG AI Researchがブラックウェル世代のGPU・NeMoフレームワーク・オープンデータセットNemotronを用いて、韓国を代表するソブリンAIモデルのひとつ「EXAONE」の共同開発を進めている。

日本にとっての意味: ソブリンAIの矛盾
LGとの合意は、より大きな構図の一部に過ぎない。NVIDIAは同じ数週間のうちにSKグループ・Samsung・現代自動車・斗山との提携も相次いで発表し、クラウド・メモリ・ロボティクス・製造業を自社プラットフォームに結びつけた。その結果、韓国はローカルで運用されるAI計算能力を手に入れたが、完全な独立は達成していない。ハードウェアとアーキテクチャの大部分はNVIDIAのレールの上で動く。これは「ソブリンAI」戦略が共通して抱える緊張だ。自国領土に能力を置きたいが、それを実現するには単一サプライヤーへの依存が伴う。

日本にとっても、この問いは遠い話ではない。経済産業省が推進するデータセンター国内立地政策や、富士通・NECが進めるソブリンAI基盤の議論において、「どのスタックを誰が制御するか」という問いは急速に現実味を帯びている。NVIDIAの公式ブログにはLGとの合意の技術詳細が、韓国エコシステムに関する声明には提携の全体像が掲載されている。韓国が物理AIファクトリーをNVIDIAとともに構築するいま、日本がパナソニックやソニーとともに同様の選択に迫られる日は近いかもしれない。
